昨年、塾生が中心となって製作されたSFアクション映画『バーチャルハート』が、アクション映画専門の映画祭であるシネマジャンクション2016にて審査員賞を獲得した。岩田直之さん(法3)はこの映画の監督を務めた人物で、最近はクラウドファンディングを利用した新しい映画製作のプロジェクトを立ち上げている。そんな岩田さんに映画製作についての話を聞いた。

岩田さんの前作『バーチャルハート』のイメージ

慶大の演劇サークル「創像工房in front of.」で主に舞台監督や裏方のチーフを務めてきた岩田さんが今回のプロジェクトで撮ろうとしているのは、『バーチャルハート』と同じく仮想現実(VR)を題材とする娯楽性の高いSFアクション映画である。SFアクションというジャンルにこだわる理由について岩田さんは、「映画は『観る』もの。アクションや美術などの映像面で手間をかけることで言語を越えた面白さを観客に提供したい」と話した。

『バーチャルハート』は予算が8万円と非常に抑えて制作された映画にも関わらず審査員個人賞を受賞している。しかし岩田さんはこの映画の出来に決して満足したわけでは無かった。「前回の映画製作では限られた予算、時間、人材の中で完成させるために様々な点で妥協してしまっていた」と語る岩田さんは、シネマジャンクションで審査員長を務めていた映画監督の押井守氏にアドバイスを求めたという。

『バーチャルハート』のポスターを囲んで。左から2番目が岩田さん

押井氏といえば『攻殻機動隊』や『イノセンス』で世界的にも高い評価を得ている映画監督だ。そんな押井監督が岩田さんに与えたアドバイスは、より質の高い人材を確保し、より良い映像を撮るということだった。

 

そのアドバイスに対して、人材を集めるためには広いコネクションが必要だと考えた岩田さんは「それは(自分にとって)難しい」と答えた。だが押井氏は「自分が良いと思った人材をスカウトしてくればいい。そういう人材を説得して映画製作に参加させられないなら、観客を楽しませる映画を作ることも不可能だ」と言って、突き放したという。

岩田さんにとって、この厳しいアドバイスは今回のプロジェクトにおける重要な指針となった。まず取り掛かったのが人材のスカウトだ。今回のプロジェクトでは「創像工房」のメンバーだけではなく、少林寺拳法部のアクション俳優を志す人や、現役のモデル、他大学で楽曲製作を学んでいる人などを集めて映画の制作に関わらせている。

左から3番目が岩田さん。

また、それらの人材を十二分に生かすためにも大幅に予算を増やすことにした。そこで取り入れたのがクラウドファンディングという手法だ。

 

「CAMPFIRE(キャンプファイア)」というインターネット上のサイトで、岩田さんたちはプロジェクトのための支援を募ることにした。このサイトでは不特定多数の人間にプロジェクトの内容を公開して多くの支援金を集めることができる。

岩田さんは多くの資金を集めるために、支援者に納得してもらえるような努力を重ねてきた。その甲斐あってか、現在支援額は目標の3分の2に達しているという。この時点で前回の予算を3倍上回っているというのだから、今回の映画制作プロジェクトの本気度がうかがえる。

「プロジェクトチームで一丸となって映画制作に取り組みたい」と話す岩田さん。学生による映画制作企画としては規模の大きい今回のプロジェクトは、果たしてどのような形で実を結ぶのだろうか。
(村上龍汰)