言わずとしれた古書の聖地、神保町。ここに軒を並べるひときわ個性的な書店がある。

すずらん通り沿いにたたずむ古書店・呂古書房は、日本で唯一の「豆本」専門店だ。豆本とはその名の通り小さな本を指し、西洋では「ミニチュアブック」と呼ばれる。手のひらにコロンと収まるかわいらしいフォルムが特徴的だ。

店主の西尾浩子さんによると豆本は海外で聖書を持ち運びやすくするために出来たという。日本では江戸時代後期に娯楽本として作られていた。雛人形に持たせる絵本等もある。

昭和28年に北海道で「えぞ豆本」が刊行され、全国的な豆本ブームの火付け役となった。版元は全国各地に生まれ、一般書店に出回らない豆本は愛書家たちの間で会員制にて販売されていた。

しかし、版元は後継者不足により一代限りでやめられてしまった。それに伴って愛好家らによる流通グループも消滅した。

現在は若手の方たちが豆本づくりに意欲を燃やしているが、当時の版元から発行された豆本を入手するのはもはや難しい。豆本は「限定本」の一種であるが故、一度に発行される部数が多くても500部ほどだったということも、手に入れにくさの一因となっている。

しかし、呂古書房では豆本の古書を手広く取り扱っている。店へ一歩入ると、所狭しに並べられた豆本が訪れた人の目を奪う。なかには5ミリほどの極小なものまで。その豊富な品ぞろえから、大学生のような若い人から豆本の収集家や研究者まで、様々な層が店を訪れるという。「これらの商品は、古書のオークションで買っています。一度売れたら二度と巡り会えないような商品も多いです」と西尾さんは話す。

西尾さんは元々、発行部数の限られた「限定本」についての研究をしており、その過程で豆本に魅せられ豆本専門店を開店した。豆本の小さく可愛らしい外観はもちろん、そのこだわった美しい装丁が好きだという。 

「豆本はただの縮小された本ではないと思っています。豆本でしか発売されていない内容の物もありますし、大きな単行本で発売されている内容であっても、豆本にする際に製作者がその装丁や挿し絵を変えていたりもする。装丁は本の顔とも言えるものですから、美しい外観を持つ豆本は持っていてワクワクします」

海外から注文が来ることもあるという。日本のきれいな豆本は海外にも需要があるようだ。

呂古書房は、過去から現在へ、日本から海外へ、豆本文化を伝達している。神保町へ訪れた際は、継承される豆本文化に触れてみてはいかがだろうか。 
(神谷珠美)