慶應塾生新聞会 三田オフィス
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日本の「きぼう」を背負って JAXAフライトディレクタ中野優理香さん

リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックが閉幕してもなお、世界に挑み続けるチーム・ジャパンがある。そのチームを統括するのが、塾員であり宇宙航空研究開発機構(JAXA)フライトディレクタの、中野優理香さんだ。

先月30日、大西卓哉宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)での約4か月の滞在を終え、帰還を果たした。中野さんは、そのミッション前半に当たる第48次長期滞在で、日本実験棟「きぼう」地上管制チームの総指揮をとる、インクリメント担当フライトディレクタに抜擢された。

インクリメント担当フライトディレクタは、宇宙飛行士の女房役とも言われるほど、ミッション成功には欠かせない存在だ。5分刻みで活動する宇宙飛行士のスケジュールの組み立て、ミッションに向けた手順書、ルールの整備を取りまとめ、他国のフライトディレクタとも調整する重要な役割を担うが、「黒子のリーダーみたいなもの」と中野さんは控えめである。

「実験成果を出したい各国の管制室はもちろん、JAXA内の各チームにもそれぞれ言い分はある。その中で、いかに上手い妥協点を探すか。そうして宇宙飛行士に気持ちよく仕事してもらうことが、管制官の務めです」

JAXAは「信頼を、さらに強く。日本にしかできないことがある」を今回の大西宇宙飛行士のミッションテーマとして掲げてきた。ISS内では、空気と水の有効利用は絶対条件。空気の漏れを最小限に抑えるエアロック(減圧室)と、船外で物を器用につかんで運搬するロボットアームを兼ね備えるのは、日本の「きぼう」だけだ。

この日本独自の技術に、今、世界の注目が集まっている。例えば、衛星打上げ技術を持たない宇宙後進国だ。今年、中野さんは、フィリピン初となる人工衛星を「きぼう」から放出させるミッションにも携わった。

「日本の信頼を、さらに強くできたと思う」と語る。技術者としての矜持をのぞかせる一方で、既存の宇宙技術はまだ進化の可能性を秘めていると信じている。「将来的には、日本の宇宙開発技術で月や火星探査を進めていくことになる」と話すが、決して楽な道のりではないという。

しかし、「はやぶさ」ミッションの成功など、日本には宇宙探査の歴史にその名を刻んできた実績がある。「何が起きるか分からないけれど、誰かが切り拓かなければいけない。あらゆる技術力を結集して、ぶち当たってみるしかない」と中野さんは力を込める。

「きぼう」の技術を月や火星で運用可能なレベルまで向上できたとしても、そのプロジェクトは他国の管制室の協力なしには実現し得ない。その際、今のフライトディレクタとしての経験がアドバンテージになると中野さんは言う。「この仕事は毎日が困難の連続。でも、そこから逃げてはいけない。信頼関係は、何か大きな困難をともに乗り越えて一気に深まる」

NASAをはじめとする、世界中の管制室との地道な調整と粘り強い交渉から、各国をつなぐパイプが太くなっていく。目先の成果だけでなく、宇宙産業の未来を見据えたチームリーダーの言葉には、説得力がある。

ところで、中野さん自身は宇宙飛行士を目指す気持ちはあるのだろうか。間を置かずに、「もちろんです」との言葉が返ってきた。

「まずは技術向上のため、管制官として未来のミッションに向けたフィードバックを進めていきたいです」

宇宙の未開拓な領域へ着実に歩みを進める「新世代管制官」。その眼は、すでに数十年後の未来へと向けられていた。
(広瀬航太郎)