慶應塾生新聞会 三田オフィス
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【人工知能の行方⑦】人工知能は人を裁けるのか

塾員で弁護士の落合孝文氏

今年、アメリカで世界初の人工知能弁護士「Ross」がBaker & Hostetlerと契約した。近年、AIの発展は目覚ましく、またさらなる発展が見込まれている。法の分野ではどのような役割を果たすのか。AIの分野に詳しい弁護士であり、慶大理工学部卒の落合孝文氏に話を聞いた。

現時点では、法曹分野でAIの利用はかなり部分的で、できることは少ない。しかしこれは法の分野に限ったことではない。現状のAIの技術レベルは、人間の仕事全てがAIに取って代わられるほどではないのだ。重要なのは、今の技術レベルで利用できる部分を見定めていくことだ。

法曹分野でAIを利用していくメリットとデメリットは何か。考えられるメリットは、業務の効率化とこれに伴う業務の質の向上である。AIは膨大な資料の中から必要な項目だけ選び取る作業に長けている。

知識のインプットに使っている時間を、個別の事案の分析や顧客のフォローに使えるようになり、業務の質が向上する。また顧客側の側面においては、チャットボットを作ることもあり、例えばイギリスでは交通違反の取り消しに特化したチャットボットが活用されている。リーガルサービスを利用する際、分かりにくいサイトの案内を日頃馴染みのない法律用語ではなく、日常用語で検索しやすくする。

一方、デメリットは、AI導入にかかる費用である。また、物事を簡単に調べられる時代の到来は、若手弁護士の育成面に影響を及ぼす可能性もある。AIによって作業の効率が上がる一方で、弁護士の育成や働き方に影響を及ぼす可能性は高い。

AI導入にはセキュリティのリスクも伴う。AIはデータを蓄積することで学習していく。その学習材料として人間が集めたデータを使用するのだが、そのデータ材料の収拾・維持の面でこの問題が出てくる。

では、法曹分野へのAI活用は、我々の仕事や実生活にどれほど影響を及ぼすのだろうか。

私たちは何かがなくなることに恐怖を抱きがちだ。例えば私たちがいま当たり前のように使っているGoogleなどの検索エンジン。昔は一つ調べるだけに図書館に行くなど、現代に比べかなり労力がかかった。しかし本当に図書館に調べに行く頻度が減り、検索エンジンが登場したことが悲しいことなのか。何かがなくなることは、何かの登場でもある。

この見方はAIにも共通する。AIは人間がインプットしたデータにより学習する。また膨大な量のデータを瞬時に処理する能力がある。一方、現時点でのAIの弱点は「新しいものを作り出すことが苦手」だという点だ。昔は何かを知識・情報として「覚えている」だけで価値があるとされた。しかしいま我々に求められていることは、暗記力よりも何かを生み出す力だ。もちろん暗記が無意味なのではない。ただそれ自体に意味を見出すよりも、その知識を活かし独自の発想力を鍛えることが大切なのだ。

最後に、落合氏は塾生に向けてこう語った。「大学生活の中でぜひ、人間が行動することに対する本質的な価値は何か、を探ってほしい。変化の激しい世の中だからこそ、その価値を見出すことに意味があると思う」

AIの進歩は私たちの生活に多かれ少なかれ、影響を及ぼしていくであろう。そこにどう対面しいくのか。その答えの先にあるものはもしかしたら「人間らしさの追求」なのかもしれない。何かが消え何かが生まれる。

今価値があることもいつかはAIのする作業となるかもしれない。一人の人間として自分は何をできるか考えて行動に移すことこそが重要だろう。
(青砥舞・戸根裕莉子)

【連載】人工知能の行方