慶應塾生新聞会 三田オフィス
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喊声 2016年11月号

将棋に「定跡」という言葉がある。将棋に限ったことではないが、長い間研究され、有効とされている手順のことである。

人間の常識に囚われないAIが将棋を指すようになってなお、定跡の有効性は否定されなかった。定跡無しに勝つことはやはり難しい。

もっとも、定跡が助けてくれるのは序盤、せいぜい中盤の入り口までである。定跡をどれだけ完璧に覚えようと、中盤以降を戦う棋力が無ければ勝ち切ることは至難の技だ。

「大学に進み就職する」という定跡に多くの人が頼っている。対戦相手が皆同じ定跡を使ってきた場合何が起こるのか。定跡を外れた後に実力差が露呈するということではないか。

定跡が何種類もあるように、定跡が細かく変化していくように、大学生活の過ごし方で今後の局面は変わっていく。

危機感を煽る者は大勢いるが、定跡が否定された訳ではない。変わった事をしようと焦る必要はない。もっとも、定跡をきちんと辿れていればの話である。

幸い、人生には将棋よりずっと多くの変化が用意されており、多少の「待った」も許されるはずだ。法でも破っていない限り、まだ間に合う。序盤のミスを悔やむ人生を送りたくはない。
(安田直人)