2月、塾生にとっては頭の痛い試験が終わり、受験生にとっては遂に試験本番。長く苦しかった受験勉強から解放される人も多いはずだ。長い、長い春休み。みなさんはどう過ごす予定だろうか。ここでは有意義な春休みの過ごし方として、映画を提案したい。シネマ研究会のみなさんにお薦めの作品を紹介いただいた。これら3作品と表の作品リストはどれもDVD化された、身近に楽しめる作品である。映画の魅力について、シネマ研究会の徳田達也さん(文2)は「淀川長治氏も言うように、映画体験に勝る人生の教科書はないですね」と語る。長い春休み、新学期・新生活に向けて、映画で心豊かに過ごしてみるのもまた一興。家でゆっくりDVD、たまに映画館へ出かけてみるのも悪くない。     (小椋彩夏)
<評>シネマ研究会 順に徳田達也(文2)、相澤調(文1)、投野慶太(文2)

● 『山の音』 
        成瀬巳喜男

 菊子(原節子)の堕胎について、信吾(山村聡)と修一(上原謙)が口論する場面。一つ一つ切り取ってみると何気ないショットである。しかしそれらがつなぎ合わされ、一つのシーンになったとき、その何気ないショットが実は計算され尽したものであったことを知る。ここに成瀬巳喜男と玉井正夫の巧さが見られるのだ。そして圧巻のラスト、信吾との対話で出てくる菊子のメタフィクショナルな台詞は、成瀬と水木洋子のお遊びであろう。
 それにしても、この親あってのこの子ありといったところか。菊子は貞淑な妻である。外に女を作る息子、美しいものにしか興味を持てない親。この菊子は不幸だ。しかし、最後には自らの手で自由を勝ち取る。成瀬巳喜男の女性観が如実に表れている一作である。

● 『イヴの総て』
 ジョセフ・マンキウィッツ

 イヴという女の子が、舞台女優としてサラ・シドンズ賞を受賞するまでを描いた感動作。嫉妬や謀略、愛憎渦巻く芸能界で必死に女優になろうとするイヴの姿に、「演技」の本質が鮮烈に浮かび上がる。演じることで得る物と、失う物。ついには人間の業をも見出すことになるだろう。
女の子なら誰でも一度は憧れる、夢のようなシンデレラストーリー。必見。

●『ふくろうの河』 
    ロベール・アンリコ

 舞台は南北戦争下のアメリカ、北軍の捕虜となった一人の男が今まさに絞首刑にされようとしている。しかし運命のいたずらか、縄が途中で切れ、男は追撃を振り切って逃げ出すのだが…。
 アンブロース・ビアスの短編『アウル・クリーク橋事件』の映像化作品として知られる本作。実は同じビアスを原作とした3つのオムニバスの中の一篇であることは意外と知られていない。逆に言えばそれほどこの作品の印象が強烈だったということだろう。
なお、監督は『冒険者たち』のロベール・アンリコ。

□シネマ研究会おすすめ映画20□

黒沢清『ニンゲン合格』
フリッツ・ラング『暗黒街の弾痕』
ジーン・ケリー『雨に唄えば』
アルフレッド・ヒッチコック『めまい』
ジョン・フォード『駅馬車』
ビリー・ワイルダー『アパートの鍵貸します』
川崎実『ヅラ刑事』
川島雄三『女は二度生まれる』
スティーヴン・スピルバーグ『宇宙戦争』
杉江敏男『大学の若大将』
オタール・イオセリアーニ『ここに幸あり』
ゲオルギー・ダネリヤ『不思議惑星キン・ザ・ザ』
アンドリュー・ニコル『ガタカ』
長谷川和彦『太陽を盗んだ男』
ビクトル・エリセ『エル・スール』
ダグラス・サーク『悲しみは空の彼方に』
エリック・ロメール『クレールの膝』
神代辰巳『壇の浦夜枕合戦記』
佐藤真『OUT OF PLACE』
本多猪四郎『ゴジラ』