「日本一忙しいラジオアナウンサー」と、あるメディアで称されている塾員がいる。吉田尚記さんは1‌9‌9‌9年にニッポン放送に入社し、現在デジタルやアニメをはじめサブカルチャーに精通するラジオアナウンサーとして、幅広い層から人気を集めている。

吉田さんは慶大文学部の人間科学専攻に在籍していた4年間、落語研究会の活動に精力的に打ち込んだ。「新歓期に日吉の銀杏並木のポストの上に座布団を置いて落語をやり始める先輩がいるなど、何をするにしても面白いことを追求していた。とにかく学生生活は笑いに溢れていた」と懐かしそうに語ってくれた。

落語研究会の活動に全力投球だった吉田さんがアナウンサーを意識し始めたのは、意外にも就職活動を本格的に始める直前だったという。「元々、編集の仕事がしたくて出版社を希望していた。三田キャンパスの就職掲示板にニッポン放送の募集がなかったら、今はアナウンサーをやっていなかったかもしれない」と話す。

卒業した今だからこそ感じる慶大の良さがあるという。「大人になった時、慶大の友達の中に有名になる人、偉くなる人が出てくるのは一つの楽しみ」と話してくれた。

新たな可能性を求めて

「日本一忙しいラジオアナウンサー」と言われているが、自分自身アナウンサーという肩書きにこだわりがあるのではないという。それでもアナウンサーでしかできない魅力を感じながら日々過ごしているそうだ。アナウンサーの魅力は「どこにいても不思議がられない。そのためバラエティーから政治番組まで幅広いことができる」ことだと話す。だからこそ常に出来るだけすべての仕事をこなせるように準備しておくことを意識しているという。この意識がスケジュール上の都合以外ではオファーを断らないというスタンスを可能としているのだろうか。

とはいえ、アナウンサーにもかかわらず、バラエティー番組での体を張った仕事ですら断らないのはなぜなのだろうと思う人も多いだろう。それに対し吉田さんは「どんな仕事であれ、私を信頼して私に依頼してきていると思うので、どの仕事でも引き受けたい」と語る。こういった考え方が好感を持たれ、「日本一忙しいアナウンサー」になったゆえんなのかもしれない。

アナウンサーの枠を超え様々な仕事に挑戦してきた吉田さんのさらなる目標を聞くと、ラジオの新しい可能性を模索することだという。現在は吉田さんを中心に新型ラジオ「Hint」を、Cerevo、グッドスマイルカンパニーという分野の異なる2社と共同開発し、クラウドファンディングを通じての製品化を目指しているそうだ。

最後に後輩である塾生にメッセージをもらった。「自分にはこの道しかない、これは自分のキャラではないと決めつけないこと。20代のうちは引き出しを増やすためにやったことのないことにチャレンジしてほしいです」
(香西朋貴)