慶應塾生新聞会 三田オフィス
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【学生文化研究所④】「その音に血は流れているか」

スマートフォンを開けば500曲以上の音楽。家のパソコンにはその何倍か。デジタル世代の若者にとっては、もはや珍しくないことだ。否、もはやスマホの容量を心配する必要すらないのかもしれない。定額制音楽ストリーミングサービスの登場は「音楽を持ち歩く」という革命ですら過去のものにしようとしている。

注目を集める音楽ストリーミングだが、現状は厳しいようだ。月間アクティブユーザー1億人を達成した「Spotify」ですら有料会員の獲得に苦戦している。「全てのアーティストが参加しているわけではなく、有料のサービスがCDなどのパッケージを代替していくのは難しいのではないか」と株式会社スペースシャワーネットワーク相談役の中井猛氏は予測する。

デジタルを取り巻く時代の潮流の裏で、ひとつの「原点回帰」が生まれている。「リアル」、つまりライブやフェス人気の高まりがそれを示している。年々規模が縮小するCD、DVDの売り上げに対し、コンサートなどの興行収入は右肩上がりだ。

遠くのアーティストのパフォーマンスをより手軽に、よりコンパクトに。音楽デバイスはそのレールの上で進化してきた。アメリカに端を発するこの流れはいつしか、CDのヒットがアーティストの成功であるかのように音楽の世界を変えた。

「本当のコンテンツとはアーティストの才能で、ステージがメディアになる。消費者がそのことに気づき始めている」と中井氏は話す。確かに録音・再生技術の進歩はライブに近い音質を実現してきたが、決してライブに追いつくことはない。観客の熱気や一度きりのパフォーマンス、趣向を凝らしたステージ。その場限りの興奮への渇望は、世界中いつどこでもあらゆる音楽を聴ける時代の反動なのかもしれない。

作り手側も変わりつつある。ライブの回数を増やしグッズ販売にも力を入れている。1年間に日本で行われるライブの数は、大小合わせて3万本にもなる。

CS放送を含むテレビやラジオ、インターネットの動画ストリーミング……。私たち消費者は音楽に触れる手段を選べるようになった。メディアも音楽のジャンル、タイプごとに細分化されていく動きがある。「インターネットは有益な手段になり得るが、使う側がそれに追いついていない」と中井氏は指摘する。IT技術は単なる手段でしかない。消費者にとって重要なのは「~できる」ということではなく、「~したい」という志だという。

世界中の音楽にスマホひとつでアクセスできる時代になった。先人たちの努力の賜物であり、若者たちの音楽ライフは数的に豊かになった。その中で何曲、生で聴きたいと思う曲に出会えるのだろうか。
(安田直人)

【連載】学生文化研究所