黒田東彦日本銀行総裁が先月20日、三田キャンパス南校舎ホールで経済学部主催の講演会を行った。日銀総裁の講演会は年間を通して少なく、また金融政策決定会合の直後であったこともあり、多くの関係者が注目する講演となった。

総裁は現在の日銀の金融政策について、「できるだけ早期に物価安定目標2%を実現するために、あらゆる政策手段を取っていく」というこれまでの方針を改めて強調した。金融政策の有効性を確保していくため、一貫性、予見可能性の高い政策をとっていくことが重要だとした。また、学界と中央銀行界には依然ギャップがあり、双方が協力していくことが求められるという。

デフレの問題点の一つとして、価格低下予想や将来の不確実性などから消費が先送りされる点を指摘し、デフレマインドの抜本的な転換の必要性を示した。その達成のために、中央銀行による市場への十分なコミットメントの下、フォワードガイダンス(中央銀行が将来の金融政策を予め明示することで民間の予想を変化させ、結果として経済に影響を及ぼすための指針)を用いて予想インフレ率を上げていくことが重要と述べた。

また総裁は、金融政策のルールについて、「金融政策の有効性を確保していくために、中央銀行が民間部門に予想外のショックを与えるのでなく、整合性が保たれた政策を実施していくことが求められる」と述べた。量的緩和などの非伝統的な政策についても、「基本的に」と前置きはするものの、外的変化へ対応する政策のオプションを予め示し予見可能性を高めていくことで、政策の有効性を確保することが必要だとした。

最後に総裁は中長期的な経済成長率について、ショックののち潜在成長率が低下する可能性について議論した「長期停滞論」が世界的に大きな注目を集めていることを紹介した。このように「長期的な経済成長と短期的な景気循環の相互作用を考慮した分析的枠組みが必要だ」と強調し、学術的な課題を学生らに投げかけて講演を締め括る形となった。

その後の質疑応答中、総裁は現在の雇用状況について「完全雇用状態に近づいている」と述べ、従来の「完全雇用状態にある」との表現を使わなかった。日銀内で構造失業率の認識が変わったとすると、追加の金融緩和の可能性を示唆する形となった。