旧図書館 耐震・改修工事へ 100余年を経て次の時代に

慶應義塾のシンボルともいえる、三田キャンパスの旧図書館。旧図書館の改修・耐震補強工事が始まることを受け、先月10日に玄関扉が閉鎖された。多くの卒業生が訪れた、同日の福澤先生誕生記念会の開催を待った形だ。

玄関扉閉鎖に伴い、旧図書館内の福澤研究センターが南校舎4階に移転したほか、ステンドグラスなどの展示物は現在見ることのできない状態となっている。早くて今秋には建物の周囲に仮囲いが設置される予定だ。


工事と保存

慶應義塾では阪神・淡路大震災の発生を受け、既存の建物の耐震調査を行い、工事の必要性が明らかになった建物については耐震補強工事を行ってきた。図書館旧館も措置が必要と判断されており、2011年の東日本大震災、また首都直下型地震発生の懸念のほか、前回の改修から30年以上が経過し、内外装の傷みがみられることから、今回の旧図書館全体の改修工事に着手することとなった。

今回のこの工事は一筋縄にはいかない。通常の耐震補強工事では「筋交い」や「耐震壁」を付加するため、建物外観や室内の意匠が変わってしま
うことが多い。しかし旧図書館の建物は一部が重要文化財に指定されており外観などの保存も求められる。そのため今回の工事では外観などにできるだけ影響を及ぼさないよう特殊な工法が検討されている。例えば「免震レトロフィット工法」という、建物そのものを免震化する工法を用いれば、建物の外観などをほぼ変えることなく耐震性を高めることができる。


福澤の念願

旧図書館のたどってきた歴史は明治時代にさかのぼる。慶應義塾の創始者である福澤諭吉は、海外視察の際イギリスやフランスで大きな図書館を目にし、その必要性を感じた。本を並べた図書室のようなものしか持たない慶應義塾にもしっかりとした図書館を、との思いにより、創立50周年の記念事業として当時としては他に類を見ない規模を誇る図書館の建設が始まった。
完成は福澤の没後10年を経た1912(明治45)年である。皆が期待した図書館で、開館のときにはその姿を見ようと多くの人が訪れた。当時は周りに高い建物がなく、三田の図書館が上野などはるか遠くからも見え、東京で話題の建物であった。

蔵書の増加に伴う増築や改修工事を繰り返し、現在まで残る旧図書館は、今年4月で開館から104年となる。


震災と戦災を超えて

長い歴史を持つ旧図書館は、その時代の中で傷つけられることもあった。1923(大正12)年の関東大震災では、激しい揺れにより、当時木製で不安定だった書架は倒れ、大量の本が落下し通路に山をなした。通行ができなくなるだけでなく、破損して使えなくなった本も出てきた。建物も被害を受けており、レンガ造りの建物は各所が破損し復旧には相当な苦労を要したという。

1945(昭和20)年には空襲によって焼夷弾を受けた。熱でひしゃげた屋根の骨組みの鉄骨が今も天井裏に残る。ステンドグラスも焼け落ちた。現在のものは、制作者小川三知の弟子にあたる大竹龍蔵が、保存されていた和田英作の原画をもとに1974(昭和49)年に復元したものだ。


塾生とともに

図書館は「大学の心臓」と呼ばれる。特にインターネットのなかった時代、情報を得る手段は本、新聞、雑誌といった書き物だけだ。昔はコピー機もなく手で写していた。また、論文を書くにも手書きであった。図書館は大学に通う塾生が多くの時間を過ごした場所であり、今以上になくてはならない存在だったのだ。この「学びの場」としての機能は1982(昭和57)年の新館開館で移転された部分もあるが、旧図書館は書庫部分は維持しながら福澤研究センターや展示室・会議室として活用されてきた。


次の時代へ

今後工事を進める中で、旧図書館をある種の「ユニバーシティ・ミュージアム」の一つの形として、慶應義塾の歴史の一端が見える場所とする、という構想も出てきている。

先月玄関扉が閉鎖された旧図書館
先月玄関扉が閉鎖された旧図書館

旧図書館はアインシュタイン、サルトルといった著名人の来塾時に使用した「記念室」という部屋も持つ。さまざまな制約により実際の博物館のようにすることは難しいが、福澤の念願で作られた歴史ある建物の中で、今までよりもう少し広げた形で展示を行えないかと検討が進められている。

今年秋ごろに囲いで覆われると、旧図書館全体の姿をしばらく目にすることができなくなってしまうだろう。また入り口横にたたずむ福澤像も、工事のため囲われたり移設されたりする可能性もあるという。日吉キャンパスに通う塾生も秋までには三田に赴き、今一度旧図書館の姿を目に焼き付け、写真撮影をすることをお勧めしたい。




明治45年からその場所で慶應義塾を見つめてきた旧図書館は、今後の大規模な工事を経て、これからずっと先の時代にも、三田を訪れる人を静かに迎えてくれる存在であり続けていくのだろう。
(青木理佳)


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