世の中には、古くなることで価値が下がるものもあれば、上がるものもある。本についても然りで、一冊でビルが建つ古書も存在すれば、二束三文で売り払われる古本もある。このような違いはどこから生まれるのか。
 

慶大文学部  安形麻里准教授
慶大文学部 
安形麻里准教授
 
「本の価値は、社会全体における位置付けによって変わります」。そう語るのは、慶大文学部で図書館・情報学を専門に研究する安形麻理准教授だ。

例えば人気の想定できる本は大量生産され値段も安く抑えられるが、それだけ安易に廃棄される可能性は高い。一方で高価な専門書やハードカバーなどは捨てにくいと感じる人が多いはずだ。「皆が知っていたものが残らず、将来的に資料的価値が出ることもあるので、なかなか難しいのです」

書物の保存は、寺院や教会といった宗教施設や、公設・私設の図書館などで行われてきた。本に保存するだけの価値を見出す人々は常に存在する。近年は電子化が注目されているが、紙とデータのどちらが良いのかは一概には決められない。
 
紙の本はやはり場所をとる。特に雑誌は種類も冊数も学術雑誌は電子ジャーナル化が進み紙の利用は減った。一方、電子ジャーナルや電子書籍は契約や著作権の問題などから、突然利用できなくなる可能性がある。
 
紙の本には、多少傷んでも補修ができる安心感がある。東日本大震災において、多くの本がぼろぼろになりながらも修復され、天災の記憶を刻み込んだのは印象的だ。
 
質感を大切にしたいというのも頻繁に挙げられる意見だ。内容だけでなく、紙やカバー、レイアウトなどに趣向を凝らした本は多々ある。形への愛着も、本の価値を決める大きな要素になる。
 
本そのものが人を惹きつける一方で、本は読者によっても大きな価値が付与される。「人間の成長に実体験はとても大事ですが、どうしても限りがあります。そこで、本から色々な知識や考え方を取り入れることが重要になります。特に過去からの累積ですね。自分の狭い知識や経験を超えて、広い知見に触れることができるのが、本のとても良いところです」
 
ただし、単に文字を追うだけではもったいない。「何冊もの本を比較して、自分なりに考えることが大切です。書いてあることを鵜呑みにしているだけだと、本の中身の半分くらいしか得られません」。落ち着いて中身を吟味できるのも本の強みだ。
 
めくったページを血肉に変えれば、その本は個人的にも、社会的にも価値あるものになる。歴史を刻み、人を育てた本は「価値のあるもの」として後世に伝わるのだ。
(玉谷大知)