青学大と東海大のバスケ・インカレ男子決勝戦。タイムアップの瞬間、コートの中央にできた東海大の歓喜の輪に目もくれず、青学大の佐藤託矢=写真=は一人ロッカールームに消えていった。

 昨季は関東2部でプレーしていた青学大。昇格一年目の今季、チームの1部優勝に大きく貢献したのが、4年生の佐藤だった。センターとして、身長197㌢、体重103㌔という恵まれた体格を生かしたコンタクト・ステップワークの強さは言うまでもないが、「あの身長でパスが捌ける、なかなかいないタイプの選手」(青学大・長谷川監督)というように、強さと巧さを兼ね備えたオールラウンダー、かつ文字通り「チームの大黒柱」的存在なのである。

 今回、インカレの取材を行ううえで、筆者は慶大の動向とともに、佐藤個人にも注目していた。U24日本代表であることに加え、相手を寄せ付けない、コート上で独特のオーラを放つ彼に魅入られてしまったのかもしれない。その無骨な雰囲気とは裏腹に、普段は「面白くて優しい」というギャップもまた魅力的であった。

 インカレでも青学大は順当に駒を進め、迎えた東海大との決勝戦。だが、第1Qから、佐藤は本来のプレーができずにいた。堅守を信条とする相手に徹底的にインサイドを押さえられてしまう。加えて、身長205㌢の竹内譲次(慶大・竹内公輔の双子の弟)のマークもあり、なかなかいい形でシュートを打たせてもらえない。打っても、リングに嫌われるという悪循環。東海大が次々と得点を重ねていく中で、佐藤にも焦りのようなものがあったに違いない。

 しかし、18点差で迎えた最終の第4Q。何かを吹っ切ったように佐藤が躍動する。オフェンス・ディフェンスともリバウンドをもぎ取り、ラインぎりぎりのボールを、相手ともつれ、倒れながらもマイボールにしようとする佐藤。「勝ちたい」という彼の気持ちが、こちらにも痛いほど伝わってくる。2部落ちも経験した。チームを牽引してきたという意地とプライドもあるだろう。佐藤の、勝利に対する強い思いが、彼のプレーひとつひとつに集約されていた。

 試合後のプレスルーム。そこに、佐藤の姿はなかった。   

(安藤貴文)