俳句を詠むためには観察眼がいる。しかし、俳句の世界では自然を知る以外に、五感を研ぎすまし、内面の美まで表現することが求められる。

俳句の世界で高校時代から活躍し、慶應義塾大学の門を叩いたのは進藤剛至さん(総2)。先日の海外日系文芸祭で、彼は海外日系人協会理事長賞を獲得したばかりだ。

高校時代に高浜虚子の孫である稲畑汀子氏のもとで実力に磨きをかけ、数々の賞を受賞した進藤さん。彼が慶大に入学したのは、自分の新天地を求めたかったから。俳句を広めるという問題意識を持ち、慶大のAO入試制度を利用して総合政策学部に入学した。しかし当時、総合政策学部には日吉のように能、歌舞伎など伝統を扱うサークルは少ない状況だった。

最先端の学問を主体とするSFCにもっと伝統の要素を取り入れても良いではないかということでSFC俳句会を創設。現在、俳句の面白さを伝えたいという思いで、後進の育成に努めている。

1年の時は自分の熟成期間と位置付け、SFCの句会に集中し個人的な対外活動を控えていたが、2年になり自身の俳人としての活動を再開。先日の海外日系文芸祭では、富山県の高浜虚子の句碑の前で句のインスピレーションを得て、その句で入賞を果たした。

進藤さんの作風は伝統を重んじるもの。現在の俳界はポップな風潮もあり、時代の変化を感じるという。

進藤さんは、時代の変化に関して「変化すること自体は悪いことではない。しかし、伝統の蓄積があってこそ変化は生まれるもの。だから、伝統をより重んじる必要がある。ただ時代の流れに合わせるのではなく、価値観を変えるくらいの気概を持たなくてはならない。自分としては、そのような気概を今後とも持ち続け、今日の俳壇に対して、常に挑戦し続けていきたい」と語る。

今後の活動に関しては、「機会があれば積極的に対外活動に取り組んでいきたい」と話す。大会にも大会の色があるが、その大会の色を塗りかえるくらいの句が詠みたいと意気込んでいる。

松尾芭蕉に照らすと、伝統の重視の良さは、静寂からの美を引き立たせられる点にある。侘び寂のさび重視した進藤さんの詠んだ句は、自分の内面と向き合ってこその作品であり、形式にこだわることの大切さを伝えるものだ。

型だけでは今の社会の課題を乗り越えていくのは難しい。しかし、様々な価値が問い直され、新たな局面にきている現代社会の中で、伝統を見直す機会というのはやはり必要である。進藤さんはその守り手の一人として今後の俳壇を引っ張っていくことだろう。

 
(遠藤和希)