慶應義塾大学医学部皮膚科学教室とアメリカ国立衛生研究所の永尾圭介主任研究員(元慶大医学部専任講師)との研究グループが、アトピー性皮膚炎が皮膚の細菌巣の偏りによって引き起こされることを解明した。

研究成果によって、現在のステロイド剤による抗炎症治療に代わる、アトピー性皮膚炎の新たな治療方法が開発されることが期待される。

本研究グループは今回、実験のためアトピー性皮膚炎のモデルマウスを作成。本来、皮膚上は多様な細菌のバランスが保たれているが、このマウスの皮膚上では黄色ブドウ球菌とコリネバクテリウムの2種類の細菌が大部分を占めるという偏りが観察された。このうち黄色ブドウ球菌が皮膚の炎症を強く促進していたことが判明した。このように、皮膚上に存在する細菌の多様性が崩れることをディスバイオーシスという。これに対して抗生物質を投与すると正常な細菌巣のバランスに戻り炎症が治まった。

しかし、抗生物質の使用はヒトの腸内環境に悪影響を与える恐れがあるため、実際の治療現場では抗生物質を投与する以外の方法で細菌巣のバランスを正常化させる必要があるなど、課題も残されている。

今後は、ディスバイオーシスを発現させない方法や湿疹を促進する黄色ブドウ球菌への免疫反応の解明を目指す。永尾研究員は「標的が絞られることで、ピンポイントで効率的な治療ができるようになるだろう」と今後のアトピー性皮膚炎治療発展の可能性を示した。

「ブリーチバス」(注記参照)というアメリカでは広く認められている治療法もあり、一定の効果も認められているが、日本では科学的根拠や安全性が確認されていないため導入には至っていない。永尾研究員は「今後、ブリーチバスが日本の皮膚科学会のガイドラインに組み込まれることを期待したい」としている。

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■ブリーチバス
風呂に漂白剤の次亜塩素酸ナトリウムを入れて週に2回、5~10分間入浴する維持療法のこと。