慶應塾生新聞会 三田オフィス
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悲しみと付き合っていく強さ 被災地に必要なサポートとは

東日本大震災から今年で4年が経つ。しかし、平成26年12月の段階で避難者数は12万1,585人、未だ12,322戸の仮設住宅に入居者がおり、復興はいまだその途上にある。そして、施設・設備面での復興と同様のことが、被災者の心的な問題についても言える。

グリーフ・サポートという支援の形

精神的ダメージとしての「悲しみ・悲嘆」に向き合う人への支援を「グリーフ・サポート」という。震災により、被災者たちは多くの悲しみに直面した。事故や自然災害などによって前触れなく近親者を失い、遺体などが遺族のもとへ戻らない「あいまいな喪失」を味わう人も多かった。この手の喪失は、気持ちに区切りをつけることが難しく、前を向きづらい。

しかし、近親者を失ったことで前向きになれず、家に引きこもったり、パニックを起こしたりしても、それは決して精神疾患ではない。深い悲しみから抜け出せずにいる人には、精神病理からの治療ではなく「グリーフ・サポート」が必要とされる。

悲しみと向き合った先にある強さ

では、具体的にグリーフ・サポートとは何か。子どもへのケアを専門とする防衛医科大学校教授の髙橋聡美さんは、「グリーフ・サポートの目指すところは悲しみからの『回復』ではない。元の状態へと戻るのが目的なのではなく、喪失後の環境に適応し人生を再構築することが目標だ」と話す。故人との思い出や、今思っていること、抱えている不安、悲しみについて「共有できる場」を作り出し、その気持ちを肯定する。そしてトラウマや喪失感などを受け入れ、成長することを促すのだ。

グリーフ・サポートの基本は、素直な気持ちを受け止め、肯定することだ。特に子どもは大人と違い、自分の意思で思いを語り出すことができない。遊びながらたわいもない話をしているうちに、ようやく表に感情がこぼれ出てくる。このとき湧き出た気持ちを否定せず、その人の速度に合わせて話を聞き続けるのだ。そして、人々はやがてトラウマとなっている思い出、喪失感などを自分なりに消化することで、強さを得られる。ポスト・トラウマティック・グロースと呼ばれるこの成長を、グリーフ・サポートは促している。

子どもの将来を狭めないために

ここまでメンタル面でのサポートに注目してきたが、グリーフ・サポートには社会的な援助を行う側面もある。例えば、震災で大切な人を亡くした人の現状、支援の現状などの情報収集、それに基づく支援ネットワークや支援システム作りなどだ。特に、今後は震災で心に傷を負った子どもに対する教育支援などが、重要になってくる。

震災後に生まれた、あるいは震災時に幼かった震災遺児の中には、心の悲しみからカリキュラムに遅れる子もいる。それは学習障害ではないにもかかわらず、学校の制度などから障害児学級への編入を余儀なくされることもあるという。「こういった理由で、子どもたちの将来が狭まることはあってはならない」と、髙橋さんなど有志のボランティアは、ケアが必要な子どもたちに対して無償で家庭教師や学習塾の提供をしている。

子どもに対するグリーフ・サポートについて、髙橋さんは「亡くなった親の歳を超えるまでで一区切り」と話す。亡くした親の歳までは、その姿を思いながら成長できる。しかし、その歳を超えるとき、記憶の中の親と重ね合わせるのではなく、「自分の歳」をとることが必要になってくる。そこでその人のグリーフ・サポートは大きなターニングポイントを迎えるのだ。制度や施設などの社会的なサポートも、精神面におけるサポートも、これからが長く、ここから変化していかなくてはならない。

被災者の歩み方から考える未来

私たちは被災者ではない。実際に震災を経験した人のように、毎日を震災のことを忘れずに過ごすことは難しいだろう。3月11日が近づき、メディアが取り上げる時期になって強く意識するようになる人も少なくないだろう。しかし、「復興は終わっていない」ということをまずは知ってほしい。

被災者の方々はそれぞれのやり方で、そしてそれぞれの速度で未来を向こうとしている。私たちも、その歩みを理解し、その未来について考えて行かなくてはならない。(向井美月)