「ハローキティ」の海外発信に成功の立役者、鳩山玲人氏
「ハローキティ」の海外発信に成功の立役者、鳩山玲人氏

「クールジャパン」という言葉をいたるところで耳にするようになった。近年では、日本のコンテンツを国内だけでなく海外へ発信しようと官民ともにさまざまな戦略を展開している。そうしたなか、目覚ましい成長をしているのが株式会社サンリオだ。同社の「ハローキティ」といえば、国民的人気キャラクターだが、その活躍の場は世界へと広がっている。急速な成功の舞台裏には何があるのか。常務取締役、鳩山玲人氏に話を聞いた。

近年、海外で急激に業績を伸ばしているコンテンツ企業の筆頭として「ハローキティ」で有名な株式会社サンリオがある。サンリオは数年前は赤字決算だったが、ここ5年間で営業利益が3倍強に伸び、大きく挽回した。この大躍進を支えた戦略とは一体何なのか。同社常務取締役の鳩山玲人氏に話を聞いた。

成長の鍵を握った要因は海外戦略にあった。現在、営業利益全体の98%は海外事業によるものだという。国内を中心に事業展開しているイメージを持たれがちなサンリオだが、実際は海外事業が大きな位置を占めている。

では、同社はいかにして今の状況をつくりだしのだろうか。「より事業を拡大するためには、マーケティングの発想を変える必要があった」と鳩山氏が述べる通り、社内では海外事業を拡げるために大きく2つの戦略転換が行われた。

一つはイメージの転換だ。「国内でのサンリオのイメージは『かわいい』『メルヘン』といったものが一般的だったが、海外でのハローキティの受け入れられ方は日本とギャップがあった」と鳩山氏は振り返る。たとえば、海外ではレディ・ガガやブリトニー・スピアーズなど「ハローキティ」グッズを所持する著名人は少なくない。しかし、海外ではハロウィンの仮装をしたハローキティといった、日本でのイメージとは異なるデザインが好まれることもある。同社は以前から海外展開を試みていたが、提供している商品の性格と現地の人々が求める商品性がかい離していたのである。

「こうした状況を改善するためには、現地でのローカライズが重要」と同氏は話す。そこで、サンリオでは商品企画やデザインなどを海外の部門やデザインの使用許可を持つ法人に任せ、「現地感覚」を重要視するようになった。日本におけるイメージをそのまま持ち込むのではなく、それを現地に合うよう転換・再構築することで「ハローキティ」は海外でも広く受け入れられていった。

「転換」の二つ目は参入する市場の再考だ。ここで鳩山氏は「ハローキティ」というキャラクターがもつ柔軟性に着目した。「『ハローキティ』といえば女児向けのものといった考え方が通例だが、実はアパレル、ラグジュアリー、あるいはクレジットカードのデザインにまで親和できる力がある」と指摘する。女児玩具市場を例にとると、その市場規模は国内でおよそ400億円。しかし、アパレル産業なら約9兆円もあり、少しのシェアをとるだけでも大きな利益が見込める。「広い視野で考え、さまざまなフィールドに挑戦していったことでヒットが生まれた」と同氏は成功の理由を分析している。

コンテンツビジネスで成功するための重要な要素として、鳩山氏は「ニッチからマスへ」という標語を挙げた。一般的に、映画・音楽・アニメ・漫画・ゲームといったコンテンツは個々に見ればある特定の層に向けて作られることが多く、小さなコミュニティ内で収まる傾向がある。しかし、鳩山氏によれば一部の熱心なファンだけでなく、いかにそれ以外の人に興味をもってもらえるかが鍵であるという。「ハローキティ」のローカライズや発信力の高い著名人とのコラボレーション企画などは、「マス」に向けた施策の例といえるだろう。「海外では『ハローキティ』はそれ自体がひとつのブランドになっているため、さまざまなジャンルに展開できる柔軟性がある。このマス戦略が他のキャラクターや企業とサンリオの違いだ」と同氏は説明する。

「ハローキティ」は今年で誕生40周年を迎えた。しかし、その存在感は薄れるどころか強まり続けている。真に価値あるコンテンツは、たとえばビートルズのように、時代や国を超えて受け入れられ、現在まで残ってきている。こうしたものは人々のなかに深く根を張り、消えることはない。もちろん、そのようなものを意図的に生み出すのは簡単ではないが、長く愛されるコンテンツをつくろうとするのであれば、「ハローキティ」の戦略は多くの示唆を与えてくれるに違いない。 (和田啓佑)