アメリカを中心に爆発的な広がりを見せたチャリティイベント「アイス・バケツ・チャレンジ」の名前はまだ記憶に新しい。

アイス・バケツ・チャレンジは、「筋萎縮性側策硬化症」、通称ALSという病気の研究支援のために、寄付活動を行うか、バケツに入った氷水を頭からかぶる運動を指す。この運動に賛同する人は前述の行動をおこし、そして3人の友人を指名する。その指名された3人は24時間以内に寄付を行うか、氷水をかぶるかしなくてはならない。

フェイスブックやツイッターなどのSNSを中心に次々と氷水をかぶる映像が投稿された。俳優や大手企業の経営者といった著名人が参加したことで、この活動は一気に有名になり、よりセンセーショナルな映像を投稿しようと加熱していった。

日本でも同様に、有名人を中心として急速に広まった。しかしその一方で、有名人の売名行為に慈善活動が利用されているという批判や、寄付を行わずに氷水をかぶる映像を投稿することに対する強い反発も現れた。

タレントの武井荘さんが自身のツイッターで、指名されたアイス・バケツ・チャレンジを行わず、その代わりに他にも寄付を求めている団体へ寄付活動を行うことを表明すると、アイス・バケツ・チャレンジを批判する向きは強まった。

慶應メディア・コミュニケーション研究所の李光鎬教授はこの運動自体について「SNSの”面白さ”や”正しさ”に対する素早い反応を利用している」と解説する。氷水をかぶる映像のもつ”面白さ”や、難病に対する支援活動だという”正しさ”はSNS上で重要視される要素だという。こういった要素を織り込んだことで、アイス・バケツ・チャレンジは急速に広まったと言えるだろう。しかし、その”面白さ”の部分が肥大化したことで、パフォーマンスと化してしまった。

李教授が指摘するSNSの特徴の一つに「選択的接触」がある。情報の受信者は自身の意見に近い情報を集める傾向にあるというものだが、SNSのようなメディアではこうした選択的接触が行われやすい。その環境下で加熱したアイス・バケツ・チャレンジでは、批判する意見と賛同する意見は分離しており、議論としてぶつかる場面が少なかった部分もある。

アイス・バケツ・チャレンジの目的に「ALSの知名度向上」があるが、面白いからとチャレンジに参加している人にALSという病気が認識されているのかは疑問だ。しかしこのチャレンジによって、8月18日から2週間で2747万円もの寄付金が日本ALS協会に寄せられたことも事実である。

さまざまなメディアを活用し、あらゆる意見に目を通すことが情報過多な現代において必要だといえるだろう。塾生にはぜひ、あらゆる観点から社会を見据える視野を持ってほしい。
(向井美月)