ヨコハマトリエンナーレ高層ビルが立ち並び、日が沈めば魅惑的にきらめく夜景が眼前に広がるみなとみらい。そこで3年に一度開かれる芸術の祭典がある。横浜トリエンナーレだ。

横浜トリエンナーレは、現代美術の国際展覧会で、2001年の第1回目から3回目まで国際交流基金が主体となって開かれ、第4回目以降は横浜市の主導で開催されている。元々は、国際交流を進めたい政府の方針と、当時は認知度の低かった現代美術を広めたい動きが合わさり、国際展覧会の実施が決定したことに端を発する。そこで西洋文化の入り口として新しいものを取り入れてきた横浜が開催地の一候補として挙がり、国と政府間の協議の結果、横浜トリエンナーレは誕生した。現在では横浜市が2004年から掲げている創造都市政策と結びつき、まちづくりの役割をも担っている。

マイケル・ランディ、『アート・ビン』
マイケル・ランディ、『アート・ビン』

第5回目となる今回のタイトルは「華氏451度の芸術:世界の中心には忘却の海がある」だ。アメリカの小説家レイ・ブラッドベリの長編作品『華氏451度』が由来となっている。この作品は、焚書が行われる近未来を描いたもので、最終的に本は無くなってしまうが、一部の人はその内容を記憶するというストーリーだ。今回アーティスティック・ディレクターを務める森村泰昌氏はこの物語から着想を得て、世界の中心には忘却の海があり、そこには忘れられている大切な記憶がたくさんあるという今回のテーマに行き着いた。その象徴的な作品が、イギリスのマイケル・ランディによる『アート・ビン』だ。これは、さまざまな作家にとっての失敗作が投げ込まれる巨大な芸術のゴミ箱で、たくさんの失敗の上に作品が成り立っていることを示唆している。加えて、物語では検閲行為も見られることから、本展では表現したいのに表現できないことがあるのではないかという問いかけも含む展示となっている。

現代美術は広く普及したものではないため、分かりづらいイメージが付き、敬遠されがちだ。そこで、若い世代を中心としたありとあらゆる人々に広めるため、森村氏自ら音声ガイドを用意するなど、現代美術の入り口を作る工夫がなされている。

横浜トリエンナーレ組織委員会事務局長を務める帆足亜紀氏は、「現代美術は、根源的な価値観を持っていて良いということを再確認させ、最新の世の中の見方をわかりやすく表現するものだ」と話す。大人になるにつれて、人の感受性や感覚は矯正されてしまう。しかし、実際には世の中に認められているわけではない大事な価値がある。そのことを、自由で多様な表現が認められる現代美術に触れることで、社会に出る前の高校生から大学生にかけての世代にもう一度確認してもらいたいと帆足氏は語った。

日によっては作家によるトーク・イベントや、各種プログラムが用意されており、どの年代の人も楽しめるようになっている「ヨコハマトリエンナーレ2014」。社会という大海原を航海する前の今だからこそ、心の中の失われた多様な価値観を見つめ直す旅に出たい。(阿久津花奈)

【展覧会詳細】
期間 2014年8月1日~11月3日
主会場 横浜美術館、新港ピア(新港ふ頭展示施設)
入館料 一般1800円、大学・専門学校生1200円、高校生800円