新刊書にデジタル化の需要

昨年10月から12月に実施された8大学共同の電子書籍利用実験の結果が発表された。3月20日には「電子学術書の現在と今後」と題したシンポジウムが三田キャンパス東館で開かれ、各大学の担当者が実験の成果について報告した。

この共同実験の目的は大学の授業や図書館で使う学術書を電子書籍化したときの学生のニーズや利便性、電子書籍化が望まれるコンテンツ等を調査することである。東大や名大、神戸大など8大学が実験に参加し、最終的に26社の出版社が協力した。

今回の実験では各大学図書館の資料に関する貸出分析が行われた。その結果、上位1万タイトルの本が貸出利用の半分を占めていることがわかった。また、貸出上位の本は直近7年に出版された本に集中していることが判明した。

また、今回の実験用に開発された電子書籍を利用するためのアプリケーション「Book Looper」を用いたモニター実験も行われた。学生からは電子書籍の持ち運びのしやすさや大量の資料を閲覧できることについて評価を得た。一方、アプリの書き込み機能やダウンロード速度に改良の余地が残されていることが明らかになった。

以上の実験結果を踏まえ、現在コンテンツに含まれていない新刊書を中心としたビジネスモデルが提案された。新刊は需要が高い上、著作権の処理が既刊に比べて平易であるからだ。そのほかに学生から要望が多いものとして教科書や既刊書が挙げられた。これらの図書を中心にコンテンツを充実させることで大学図書館向けビジネスを確立させることができるとし、慶大メディアセンター長の田村俊作氏は「そのための議論を継続する必要がある」と話した。

共同実験自体は3月の成果発表をもって終了したが、貸出分析は参加大学を中心に規模を拡大して行う。コンテンツの需要についてデータの精度を高めていく予定だ。