「部員が少なくて苦労した」——筆者が取材した大会後にいくつかの部から聞かれた言葉である。慶應義塾に存在する体育会は全部で39部。それほど部員不足の問題は深刻化しているのか。体育会各部の部員事情の現状を取材してみると、部によってその人数に格差が生まれている実態が浮き彫りになった。

(湯浅寛)

 端艇部の花形種目は8人乗りのエイトだ。4月に行われる早慶レガッタでは第1、第2とエイトが2レース行われる。しかし、4年生が1名、3年生が6名、2年生が4名と16名に満たなかった今年のエイトは、入学したばかりの1年生を出場させなければならなかった。
 さらに、大会前の追い込みと同時に新入生の勧誘まで行わなければならない。新歓期は朝に埼玉県戸田で練習を行い、日吉に移動して勧誘をするという日が続いた。

「この時期はやはり苦しかった」と會田泰久主将(文3)は振り返る。

 また、現状では部員数の関係でインカレ8種目のうち、2種目にしかエントリーできない。これは他大学と比較しても少ない。
 航空部では前主将が、上級生不在のため2年次から主将を務めるという異例の事態が起こった。今年は4年生5名、2、3年生8名ずつ、1年生3名の計24名と、全体としてはほぼ適正な部員数であるという。しかし、1年生が3人というのは少なく、依然不安定な状態にある。

航空部では主将、主務に4つの部門と計6名の役職が必要だ。1学年5名程度までであれば1人当たりの負担は軽くて済むが、3名では1人で2つの役職をこなさなければならないことになる。

 斉藤範祐主将(政4)は「今後の新入生の入部次第では1人当たりの運営負担が大きくなり、拘束時間が増える可能性がある」と危惧している。

全体数、23年前水準に戻る 減少傾向に歯止めかからぬ部も


 具体的な数字から体育会の現状を分析してみると、部間の格差が広まってきていることがわかる。

 表1では、野球部、ソッカー部(ア式蹴球部)、蹴球部(ラグビー蹴球部)などの大規模な部では部員数は、大学全体の学生数が慶應のおよそ1・5倍の早稲田大学とほぼ変わらない。しかし、卓球部女子、漕艇部女子のように中・小規模の部になると大きな差が出てくる。

 表2は、低迷が続いていた体育会全体の部員数がここ4年増加し、昭和59年とほぼ同規模に達していることを示している。ただし、増加しているのは大規模な部や一部の中・小規模の部であり、部員が減少し、試合に出場できない部が存在するということも事実である。

 体育会本部主幹・高橋一馬さん(商4)によると、体育会本部が行ったアンケートで、部の問題点に部員不足を挙げる部は非常に多かったという。

 増加傾向にある部と依然部員不足に苦しむ部の格差が広がっているというのが現状のようだ。

 部員不足は部のレベル維持を困難にする。

 端艇部の會田主将は「ほとんどの選手が試合に出られるうえ、部内の順位付けがわかってしまい、競争意識が生まれない。精神面を鍛えるのが今後の課題」と語る。他にも紅白戦などの実践的な練習ができない、上級者に合わせた練習ができないなど、部員不足が間接的に部のレベルに影響している。

新入生勧誘に力点 知名度向上目指す

 より多くの新入生を迎えるために、スポーツ推薦の制度がない慶應義塾では、新入生の勧誘が重要になってくる。

 体育会本部では新歓期に多くの人が自分に興味のあるスポーツが見つけられるよう、体育会39部を紹介した冊子『ムーブメント』を配布し、今年から体育会合同説明会を開催した。大学に入学してから始めても大会で活躍できる競技であれば、なお勧誘に力を入れる。

 端艇部では前年の9月ごろから新歓に向けて動き始め、今年は部としては初めて新歓コンパを行ったという。また、プロモーションビデオ(PV)を作成するなど、知名度向上にも取り組んでいる。

航空部もPVを作成し、機体展示を行った。上級生になってから「1年生の時に部の存在を知っていれば入っていたかもしれない」という言葉が聞かれることもあるだけに部の知名度を上げることが部員増加につながる。毎年試行錯誤して新歓期を迎える。

 体育会本部の高橋さんは「1人でも多くの塾生に体育会でしかない感動を味わってほしい」という。

 慶應義塾の体育会は他の多くの大学がスポーツ推薦制度を設ける中でスポーツ推薦を使わずに健闘している。更なる飛躍のために、体育会部員はより多くの「若き血」を求めている。