慶應塾生新聞会 三田オフィス
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RU11加盟校学長・総長に訊く これからの大学教育を考える 北海道大学総長 山口佳三氏

【連載主旨】多事「創」論
「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。だが、多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。

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実情から乖離する教育 社会と共に歩む大学へ

北海道大学 山口佳三総長

目的を見失った入試改革 理念を再確認すべき

政府の教育再生実行会議を中心に、大学入試の制度改革について議論が続く。日々改革に関する報道も増え、徐々に新制度が定まりつつある。先の第4次提言では基礎と発展の2回に分けた「達成度テスト(仮称)」の導入も発案され、5年後を目処に改革が進んでいる。
こうした一連の大学入試制度改革に懸念を示したい。改革を推し進める前に、その理念を再確認するべきだ。そもそも現行の大学入試制度の問題点は、高校と大学における教育が上手く接続できないところにある。その原因は入試の負担が大きすぎることだ。こうした議論は以前にも本学の教員を中心に議論され、『大学入試の終焉』(佐々木隆生著)にまとめられている。

以前の議論では、達成度テストをコンピュータで出題し、学生の正答率に合わせて出題の難易度を変えていく仕組みをとることが考案された。「TOEFL iBT」などで取り入れられているシステムだ。こういった方式を取れば、試験を受ける学生にとっても試験を運営する大学側にとっても負担が小さくなる。

そもそも大学入試の負担を軽減し、高校と大学の教育を円滑につなげることが目的なのだから、テストを複数回に分けるのは現実的ではない。これでは結局高校教育が大学入試ありきのものになってしまう可能性が高い。試験を運営するが大学側にも大きな負担が求められる。現在進む議論に危機感を覚える。RU11においても、入試改革の議論も含めて積極的に発言していく。

進む国際化 精神的なタフさが必要

ではこれからの日本に求められるのはどういった学生か。今の日本の学生の特徴として自己肯定感が低いことが挙げられる。海外に出て活躍するためには精神的な強さが求められるだろう。国際化が進んでいく状況に対応できる人材が必要である。

特に現代の学生は親元で甘やかされて育てられることが多い。学生は家族を離れて下宿をし、自律的に生きることを経験することで、精神的なタフさを身につけるべきである。北海道大学の学生の特徴は、やる気のある学生が多いことだと私は考えている。道外からも多くの学生が集まり、彼らは親元を離れることで必然的に自立性が鍛えられる。本学では日本各地から学生を集めるために東京・大阪・名古屋で進学相談会を実施している。

これからの大学教育 社会と共に歩む大学へ

大学側も変化する社会に合わせた教育を提供するべきと考える。「社会とともに歩む大学」を目指すべきで、社会の実情と乖離しがちな大学教育には改善の必要性がある。

就職活動の動向についても注視したい。この度就職活動時期の前倒しが決定したが、一括採用といった根本的な制度の変革が行われない限り、現状の問題は変わらないのではないか。就職活動のために大学での勉強が疎かになるのはあるべき形ではない。現在の形式で就職活動が行われている以上、大学側もこれに対応していく。しかし就職制度改革については今後も他大と連携し企業とも積極的に意見交換をしていきたい。

また、全国的にみると大学生の基礎学力の低下が顕著であり、大学教育も対応することが求められる。本学では1年次に全員が総合教育部に所属し、基礎学力を身につける。専門的な学問を学ぶ前に、その前提となる教養を定着させることを狙っている。

もちろん、こうした教育は高校で施されるのが望ましい。入試改革が理想的な形で進めば、高校と大学の連携は改善するだろう。

これからも北海道という地域に存在する特性を生かしながら、大学教育について提言していきたい。

大学紹介

北海道大学は旧制帝国大学の1つで、日本でも有数の国立総合大学。クラーク博士が初代教頭を務めたことでも有名な「札幌農学校」として明治9年に開校して以来、130年以上の歴史を誇る。「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」の4つの理念のもと、北海道という地理的な特性を生かした教育を行う。