参加必須の防災訓練の様子
若者を地域に根付かせる取り組み

学生、高層マンション、地域コミュニティ。一見相いれないように思われる三つの要素。今年4月にオープンした神田淡路町の「WATERRAS(ワテラス)」では、これらを結び付けようとするまちづくりが行われている。「活動の主な目的は 人々の交流の場をつくること」と話すのは松本久美さん。まちづくり団体「一般社団法人淡路エリアマネジメント」の構想に携わり、現在も地域活動を推進している、同法人サブマネージャーだ。

ワテラスが、小学校跡地を活用した再開発事業によって誕生したことから、「小学校が持っていた地域コミュニティの核としての機能を引き継いでほしい」との要望が地元から挙がった。そういった経緯もあって、ワテラスは住居、オフィス、商業施設を備えるほか、人々の交流の舞台となるコミュニティ施設「ワテラスコモン」が整備されている。

まちづくりの仕組みをつくる上で重視されたのは学生の力だ。このエリアには多くの学校がある一方で、夜間人口における学生は少ない。若い人々が地域に根付き、地域活動に参加できる環境をつくるために、「ワテラススチューデントハウス(学生マンション)」が設けられた。この物件は家賃が地域相場の3割安である代わりに、地域活動への参加が求められる。活動のメニューは、例えば、お祭りや防災訓練、ワテラスで行われるマルシェの運営補助などのほか、学生ならではのアイデア力を生かす実行委員会型の機会もあり、実際に学生が自ら発案した企画も進行中だ。

入居者に必要とされる素質は「地域活動に魅力を感じる」ことだ。一般的な住宅情報誌への情報掲載はせず、プロジェクトに賛同した大学教員などを通じて宣伝を行った。その結果、建築や都市工学、まちづくりについて学ぶ人、イベント好きな人が多く集まった。

この学生マンションに住む慶大生の蓑輪美智子さん(薬1)と二瓶太一さん(法3)に入居したきっかけを伺うと、蓑輪さんは「以前住んでいた地域のことをもっと知りたい」という思いがあったと話す。ワテラスに住んでいるからこそできる経験はとても魅力的だと言う。二瓶さんは地域のお年寄りと若者との交流を増やしたいという思いから応募した。最近は地域のために何ができるかをよく考えるようになったそうで、「これからは各々の得意なことを活かして活動できれば」と話す。

最後に松本さんは「この試みはまだ始まったばかり。エリアマネジメントの活動範囲を拡大するとともに、学生のアイデアを取り入れた企画をもっと増やしていきたい」と今後について語った。 (浦野志都)