演奏会の様子(提供:ワグネルソサィエティー男声合唱団)

縦横の絆を歌に乗せて

慶大を代表する音楽団体ワグネル・ソサィエティー男声合唱団。その創立は1901年と総合大学の音楽サークルとしては最も古く、歴史と伝統のある団体である。学内の式典行事ではもちろん、学外や海外にも活躍の場を広げている。

ワグネル男声合唱団には現在60人の団員が所属し、その運営は全て学生自らの手で行われている。団員たちは1年を通して他大学との演奏会、外部からの依頼演奏、そして冬の単独演奏会などに向けて主に週3回の練習をメインに活動している。

昨年11月には、慶大出身でシンセサイザー奏者、作曲家として有名な冨田勲さんの「イーハトーヴ交響曲」の世界初演舞台にも出演をしている。総勢300名のオーケストラや合唱団に加え、ソリスト(独唱者)としてVOCALOIDの『初音ミク』を起用したことからも話題をよんだ作品である。今年9月15、16日にも初音ミクの再演を果たした。

今年の夏にはドイツのオクセンハウゼンで世界各国が集まる合唱祭が開かれたが、ワグネルからも十名ほどが参加するなど、その活動は日本にとどまらない。バックコーラスなどでのTV出演やCDの制作、地方三田会での演奏など、大学サークルとしてだけではなく、社会の団体としても活動している。

彼らの1年の集大成ともいえる定期演奏会は毎年冬に行われ、1000人を超える人たちが彼らの歌声を聴きに訪れる。ワグネルの名は、19世紀ドイツの作曲家として有名なリヒャルト・ワーグナーにちなんでいる。今年はワーグナー生誕200年にあたる年であることから、定期演奏会ではワーグナーの歌劇「ローエングリン」を男声合唱版に編曲し初演される。このステージにはOB50名ほども参加し、総勢100名を超える迫力のステージとなる予定だ。

責任者を務める田中佑岳さん(理4)は「ただ歌って楽しむだけのカラオケとは違う。辛い練習を乗り越えたからこそ、舞台上でいいハーモニーを響かせ、歌っていて気持ちいいと思える。そんな体験ができるのはワグネルだからこそ」と語る。

大学4年間を賭けて共に合唱に打ち込んだ仲間は、卒業してからも一生縁が続く。音楽の上達はもちろん、かけがえのない仲間を得られることも魅力の一つである、と田中さんは言う。

横だけでなく、縦のつながりも深いワグネル合唱団。昨年5月に合唱団を半世紀にも渡って指導された畑中良輔先生が亡くなられた。その追悼コンサートが今年9月に行われたが、400人を超えるOBが集まり、世代を超えた団体の結びつきを見せた。

普段合唱に慣れ親しんでいない人も、芸術の秋だからこそ、彼らの力強く深いサウンドに耳をすましてみるのもいいかもしれない。    (安田麻里子)