CD評論 〜Michelle Branch「Hotel Paper」〜

 「高校時代に最も好きだったアルバムは何ですか?」そう訊かれたら、自分はMichelle Branchの「Hotel Paper」だと答える。Michelle Branchは、米・アリゾナ州出身のシンガーソングライターで、01年にSingle「Everywhere」でデビュー。当時弱冠17歳だった彼女が、自ら曲を作り、ギターを演奏しながら歌う姿は多くの人に衝撃を与え、その後発売された1st Album「The Sprit Room」は全米で100万枚以上、日本でも35万枚以上を売り上げて大ヒットを記録し、その後Avril Lavigneを始めとした多くのフォロアーが現れ、音楽シーンに大きな影響を与えた。「Hotel Paper」はそんな才能溢れる彼女の2nd Albumである。(ちなみに、「Hotel Paper」とは、多忙なデビュー後初のツアー中、ホテル備え付けのメモ用紙に書き綴った歌たち、という意味だそうだ。)
 
 では、なぜそのアルバムが高校時代最も好きだったのか、それをこれから書きたいと思う。彼女の1st Album「The Sprit Room」では、彼女の書く歌詞にある特徴が出ている。それは、歌詞は全て彼女の「空想」によって書かれたものであるということである。「『ああ、ツライなあ。この気持ちを歌にして吐き出さないと』って書いた曲って、ないんじゃないかな。」と、ある音楽雑誌のインタビューの中で当時の彼女は発言している。それに対し、2nd Album「Hotel Paper」では歌詞は全て、失恋という「現実」に向き合うために書かれたものになっている。どうして彼女は空想で歌詞を書くのをやめ、現実に向き合うために歌詞を書くようになったのだろうか。

 今まで空想ばかりしていた女の子が、それを止めて現実と向かい合おうとすること。それは、子供から大人へと成長しようとすることではないだろうか。彼女が「Hotel Paper」に収録されている曲を書いたのは、彼女が18〜19歳の頃である。このことからも、そのように思えてならないのだ。実際にその歌詞を見てみると、別れた相手にあからさまな怒りをぶつけるようなものや、「あなたがここにいてくれたらいいのに」と空想するようなものは当然なく、「あなたは私から全てを奪っていったけど、それで本当に幸せなの?」といったものや、「あなたはもういないのね。それじゃあ、私はこれからどうすればいいのかしら?」といったものなど、失恋という現実を冷静に分析したものになっている。そして、その歌声には、現実に向かい合うことの苦しさ、辛さ、そして、それに特有の痛み、すなわち、子供から大人へと成長することの苦しさ、辛さ、そして、そういった時期に特有の痛みが込められていて、それらが聴き手にダイレクトに伝わってくる。高校時代というのは、ちょうど子供から大人への橋渡しとなる時期である。それ故に、当時の自分には彼女の歌声に込められているそういったものを痛切に感じることができたのである。

 彼女とは国籍も性別も違うし、自分自身、高校時代に失恋を経験した訳ではない。それでも、不思議と彼女の歌に共感せずにはいられなかったのだ。それは、前述した彼女の歌声に込められているものが僕の心をしっかりと捉えたからに他ならないし、何より、それに自分自身が現実に向かい合って、大人へと成長するための勇気をもらえたこと。それが、「Hotel Paper」を高校時代に最も好きだったアルバムに選んだ理由である。

 ところで、そんな彼女も昨年結婚し、つい先日、彼女は22歳にして元気な女の子を無事に出産し、一児の母となった。時の流れは速いものである。さて、皆さんは、「高校時代に最も好きだったアルバムは何ですか?」と訊かれたら、何と答えるだろうか?

(小林 孝彦)

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