メタンハイドレート 応用研究で高まる期待

先日、愛知・三重沖の海底地層で、未来のエネルギー源として注目されているメタンハイドレートの試験的採掘に成功したというニュースが報じられた。そこで、メタンハイドレートをはじめとするクラスレートハイドレートを研究されている慶大理工学部機械工学科の大村亮准教授に、研究内容についてお話を伺った。

クラスレートハイドレートとは、水とゲスト分子によって形成される化合物で、代表例が水とメタンで形成されたメタンハイドレートだ。見た目は氷に似ているが、水分子の並び方が異なる。クラスレートはラテン語で「格子で閉じる」という意味のclathratusが語源だ。その名の通り、化合物内部にガスが閉じ込められており、それを取り出しエネルギーとして利用することが期待されている。慶大のクラスレートハイドレート研究における実績は国内において北海道大学と一、二を争うほどだ。論文は毎年約10本程度執筆していて、これは世界でもトップクラスだ。

次世代の生活を豊かに

ハイドレートの応用研究の一つに、天然ガスをハイドレート化することで、ガス田から天然ガスを市場へと輸送しやすくする試みがある。天然ガスは普通、マイナス162度で液体化しないと輸送できないためにタンカーの材質を特殊なものにしなければならないなど、初期投資が多い。そのため、中小市場だと利益を回収できる可能性が低くなる。そこで、ガスを高密度に貯蔵できるハイドレートの利点を活かし、ハイドレート化することで、マイナス20度での輸送を可能にした。これによって中小規模の市場でもコストを抑えることが可能になる。また、慶大はハイドレートによる天然ガス輸送を実証する国家プロジェクトに協力し、1日5トンの製造に成功した。しかし、ビジネスとして運用するには1000トンが必要になるため、問題点の解消や技術の発展が求められている。

ほかには、火力発電所から出る排気ガスから二酸化炭素を分離させる研究も行っている。しかし現在はアミンという毒物を用いるため、大規模に使用するのは懸念されている。そこで、排気ガスに含まれる二酸化炭素と窒素を水と反応させると、ハイドレートに二酸化炭素が取り込まれるという性質を利用した新しい技術がアミン法の代わりとして期待されている。「水さえあればハイドレートはできるので、環境負荷が少ない」と大村准教授は語る。

ハイドレートを利用した空調技術もある。ハイドレートは分解するときに周りから熱を奪うので、それを冷房として利用するというものだ。従来のフロンを液体にして蒸発させるエアコンより熱のやりとりが大きいので、効率がいいということがメリットの一つだ。しかし理論的には証明されているが「まだ夢の段階」であり、実現にはまだまだ時間がかかりそうだ。

大村准教授はクラスレートハイドレート研究や開発について、「未成熟な段階だからこそ、技術開発の最先端との距離が近い。産業界の方々と連携を維持しつつ、レベルの高い基礎工学研究を進めていきたい」とこれからの展望を語った。

資源としての運用が注目されがちなメタンハイドレート。しかし、慶大の研究が示しているように、私たちの生活をより豊かにする可能性を秘めている。これからも注目していきたい。      (矢野将行)